不動産不況が深刻化する中国で、いま異変が起きている。未完成のまま長年放置された高層ビルやタワマンなどで、工事を再開する動きが目立つ。ジャーナリストの高口康太さんは「中国政府が大号令をかけた結果だ。中国では不況なのに新築物件が次々と完成し、住宅在庫が増え続けている悪循環に陥っている」という――。
※本稿は、梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)より一部を抜粋、加筆・編集したものです。
不況なのに新築物件が次々と完成
中国不動産市場の下落が止まらない。
中国国家統計局は1月17日、2024年の不動産関連統計を発表した。新築住宅の販売面積は前年比14.1%減の8億1450万平米、販売額は17.6%減の8兆4864億元となった。ピークだった2021年は販売面積が15億6532万平米、販売額が16兆2730億元だったので、ほぼ半減した計算となる。
ずらりと前年比マイナスが並ぶ不動産統計だが、ほぼ唯一大きく伸びている数字がある。それが在庫だ。住宅在庫は16.2%増の3億9088万平米。2021年の2億2761万平米から7割ほど増えている。
不動産不況ならば、まず新規投資をしぼって在庫を減らすのが当然の選択肢だ。ところが今の中国は違う。不況なのに新築物件が次々と完成し、在庫となっているのだ。いったい何が起きているのか。
高さ世界一の未完成建築
不動産不況が始まる前から建設が続いていた物件が完成して在庫になっているというなら、まだ話はわかる。ところが長年、野ざらしにされていた未完成建築の工事が再開されるという不可解な現象が起きている。
私が目撃したのは天津市郊外の高級高層マンション団地だ。その中央には高さ597メートル、なんと世界一の高さの未完成ビルがそびえ立つ。その名は高銀金融117。周囲には多数の高層マンションや戸建て住宅からなる一大高級住宅地が造成されている。隣にはポロ競技場(馬に乗って行う球技)まである。そのクラブハウスはヨーロッパの宮殿のようなデザインで、豪華そのもの。競技場利用の会員権は年当時で30万ドルだったというからまさに貴族の遊びだ。
高銀金融117は建設開始から7年後の2015年にディベロッパーの高銀地産公司が資金難で破綻、工事がストップしてしまった。その後、野ざらしとされてきた。ちゃんと壁を作った主塔部はいいが、隣にある付設ビルは柱がむき出しのまま。長年、風雨にさらされてきたので、いたるところにサビが浮いている。
周囲の高層マンションはというと、落ち着いた外装、広い歩道、緑豊かな庭園など、高級感が漂う。ただ、建設中断期間が長かったためか、建物の隙間から雑草が顔を出すなど、早くも廃墟感が漂い始めていた。
これら長年放置されていたマンションの工事が再開されていた。近隣にあった食堂で話を聞くと、2022年秋から建設が再開されたという。今さらこのゴーストタウンを完成させてどうしようというのか? その裏側には中国不動産業界の苦境が隠されていた。
つづき
https://president.jp/articles/-/91606