日本産の「ANIME」と「MANGA」を北米に売り込み続け、実績を残してきた「VIZ Media」が新たな挑戦を始めるというのだ。
これは日本にとってよいことなのか? 椎名ゆかり氏が改めて背景から解きほぐしていく。
小学館、集英社、小学館集英社プロダクションの出資するアメリカの現地法人「VIZ Media」は、
長年にわたって北米において日本ANIME販売やMANGA翻訳出版を重ね、その普及に大きく貢献してきました。
創立からおよそ30年、必ずしもその道のりは平坦ではありませんでしたが、
ANIMEよりもさらに普及が難しいと言われたMANGAをアメリカで“商品”として根付かせるにあたって、
同社の果たした役割は決して小さくありません。
そんなVIZ Mediaが2018年2月、
ゲーム開発スタジオ「Rose City Games」と組んでPC向けゲームのオリジナル作品の製作を、
さらに5月に入り、映像配信大手「ネットフリックス(Netflix)」向けのオリジナルANIME番組の製作を発表したのです。
これは北米において、日本産ANIMEとMANGAの販売ビジネスで業界を牽引してきたVIZ Mediaが、
既存の作品の流通だけなく米オリジナル作品をプロデュースする、ということです。その背景について考えてみようと思います。
著者注:本コラムでは、アメリカで発売されているアニメとマンガについて、それぞれ英語でANIMEとMANGAとして表記します。
■市場の半分を占めるVIZ Media
VIZ Mediaはこれまで、小学館や集英社などの日本の出版大手との太いパイプを活かし、
たとえば、小学館の高橋留美子作品(『らんま1/2』『犬夜叉』など)や集英社の
「週刊少年ジャンプ」作品(『ドラゴンボール』『NARUTO』など)などの
ANIMEやMANGAをアメリカでもヒットさせてきました。
2000年代初頭には、大手ケーブルTV局カトゥーンネットワークと連携し、
同局で放送するANIMEの原作MANGAを中心に雑誌「SHONEN JUMP」を立ち上げ、
その誌名を前面に強く打ち出すことで、北米で「JUMP」という“ブランド”を確立することにも成功しました。
VIZ MediaはANIMEとMANGA以外も手掛けています。「HAIKASORU」というレーベル名のもと、
トム・クルーズ主演の同名映画の原作小説『All You Need Is Kill』など、日本のSF作品も出版しています。
でも、特にMANGA市場における同社の存在感は大きく、2017年北米MANGA市場の統計を見ると、
VIZ Mediaの売り上げは市場全体の約半分を占め、業界2位の「Kodansha USA」のほぼ3倍と、他社を大きく引き離しています 。
そんなVIZ Mediaが、日本の作品の販売ではなく、オリジナル作品の製作に乗り出す、
しかもANIMEだけでなくゲーム市場にも参入するというのは、何を意味しているのでしょうか。
■VIZ Mediaによるオリジナル作品製作
まず、成功したときの利益を見込んでいるのでしょう。
翻訳作品の出版や販売では利益が限定されています。作品製作となると出資のリスクは負うものの、
作品のIP(Intellectual Property 知的財産)を自社で保有できるため、その後のキャラクターマーチャンダイジングなど、
さまざまなビジネス展開に際してコントロールが容易になり、大きな利益を見込めます。
これは、VIZ Mediaと資本関係にある集英社も以前から積極的におこなっていることです。
たとえば「少年ジャンプ」マンガ作品のアニメ、ゲーム、キャラクター商品、海外へのそれらのライセンス販売、
そして「ジャンプフェスタ」などのイベントやミュージカルなど、集英社の作品とキャラクターを中心に、
さまざまな形でビジネスを展開しています。
このようなビジネス展開の傾向は、当然日本の企業に限ったことではありません。
アメリカのスーパーヒーローを思い出すまでもなく、
世界中のコンテンツビジネスの現場でIPを中心としたビジネスが展開しています。
つまりVIZ Mediaは、現時点の世界のコンテンツビジネスの大きな潮流の一つに沿って進むことを決めたのだ、
と言えるかもしれません。
画像:アメリカ発の人気ウェブコミック『Homestuck』のコスプレ
![【アニメ業界】“日本産”でないANIMEやMANGAの増加を「歓迎すべき」理由[05/22] ->画像>8枚](https://courrier.jp/media/2018/05/22015819/9388876873_e5f8f8f452_k-625x420.jpg)
https://courrier.jp/columns/122301/
続く)