国連人権高等弁務官事務所(OHCHR、ジュネーブ)は8月31日、中国新疆ウイグル自治区で「深刻な人権侵害が行われてきた」と指摘し、少数民族ウイグル族らに対する恣意(しい)的で差別的な拘束が「人道に対する罪に相当する可能性がある」とする報告書を公表した。中国当局は「内政干渉だ」と反発しているが、OHCHRは自由を奪われている全ての人々を解放することなどを勧告した。
国連で発言力を増す中国は、バチェレ人権高等弁務官らに公表しないよう働きかけ、外交的圧力も強めていた。31日はバチェレ氏の退任日で、公表はジュネーブ時間で日付が変わる十数分前だった。報告書は指摘されてきた人権侵害を認定し、改善も求めるもので、人権を重視する国連としての立場を明確にした。
中国当局は、イスラム教徒が多数を占めるウイグル族らの取り締まりは「テロ」や「過激派」対策だと主張してきた。
報告書は、中国当局が何が過激主義なのか「幅広く曖昧な定義」を適用し、正当な抗議や宗教活動もテロ活動と分類される危険性を指摘した。通常の宗教的な行為など個人の自由な選択と過激主義を「混同しているようだ」とも強調。長いひげを生やしたり、イスラム教の禁忌とされる酒を飲まなかったりするなど、暴力とは関係のない行為も中国当局が「過激派の兆候」だとし、テロ対策を口実に問題とする行為の範囲を大幅に広げているとの見方を示した。
中国当局が「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ再教育施設については、元収容者らへの聞き取り調査で「施設から(自由に)退所したり、一時帰宅できたりした人は一人もいなかった」とし、自由意思ではないと指摘した。中国当局は「(収容は)過激思想の束縛から解き放つ」ためだとしていたが、元収容者は「罪を白状するよう言われたが、何を白状すればいいのか分からなかった」と話したという。
再教育施設では、収容者が拘束された状態で電気棒で殴られたり、女性がレイプを含む性的暴力を受けたりするなど、拷問や虐待が行われていたとも指摘した。米国などが100万人以上と推定する収容者の総数は確認できないとしつつ、「少なくとも2017~19年にかけ、大規模で恣意的な拘束があったと結論づけるのが妥当」とした。
中国当局は、再教育施設について19年後半に運用を終えたと説明している。これに対し、報告書は、近年の逮捕者や長期の実刑判決の増加、刑務所の拡大などから「自由剥奪の手段が(再教育施設から)正式な投獄に移行したことが示唆される」と指摘した。
また、家族計画の名の下に、強制的な避妊などが行われた可能性を指摘したほか、家族計画のルールに違反したことを「過激主義」として長期拘束した事例を挙げた。
13項目にわたる勧告では、拘束されている人と家族を再会させることや、安全保障やテロ対策、少数民族の権利を統制する法的枠組みを全面的に見直すことなどを求めた。
報告書は計46ページ。聞き取り調査の対象は現地の状況を直接知るという40人で、うち26人は16年以降に再教育施設などで働いたか、収容された人だという。報告書は聞き取り調査や、毎日新聞などが5月に報じた「新疆公安ファイル」など中国当局の内部資料、中国当局の公式文書などをもとに作成したとしている。中国政府の120ページ以上の主張も合わせて公表した。
バチェレ氏は今年5月下旬、国連の人権部門トップとしては17年ぶりに中国を訪問。新疆ウイグル自治区も訪れ、報告書について「退任までに公表する」としていた。バチェレ氏の報道官は報告書を昨年末にも公表するとしていたが、年明けになっても公表されず、米国などから批判を受けていた。
ロイター通信によると、中国は6月下旬から複数の国に書簡を送り、報告書の公表に反対する立場を支持するよう求めていた。8月25日に退任記者会見に臨んだバチェレ氏は「40カ国」程度の国から公表に反対する書簡を受け取ったと説明。「大きな圧力を受けているが、それによって公表しなかったり、公表を差し控えたりすることはない」と強調していた。【ニューヨーク隅俊之】
https://news.yahoo.co.jp/articles/1345c14f915eba0b403f0b9f7e0fa5edd51b7aa0