中国で1月28日から始まった春節の大型連休が2月4日で終わる。
今年は過去最多の延べ90億人が大移動すると言われ、海外旅行では日本が一番人気となった。東京や大阪などの街中で大勢の中国人観光客を見かけた人も多かっただろう。
日本のメディアでは、春節の数日前から「今年の春節」に関する記事が掲載され始めた。筆者も「今年はどうなる?」「今年の特徴は?」などの取材を複数のメディアから受けたが、今年に限った特徴はとくになく、例年の延長でしかない。
だが、春節開始後にメディアを見ると、いまだに「爆買いは増える? 増えない?」「モノ消費からコト消費へ」といった、「爆買い」に関連した取り上げ方が目立つ。まるで2015年の「爆買いブーム」の時点で、時計の針が止まったかのようだ。
■なぜ、爆買いは起きていたのか
(略)
彼らは日本のドラッグストアや家電量販店で化粧品やクスリ、温水洗浄便座、保温ボトルなどを、文字通り「爆買い」した。これらは自身のお土産だけでなく、まだ日本に来ることができない家族や友人、同僚に頼まれた買い物でもあり、転売目的の人もかなりいた。そのため大量買いしたのだ。当時は団体客が全体の約7割、個人客が約3割で、団体ツアーの参加者が多かったという特徴もあった。
だが、それからほどなくして、自由時間が少なく、有名観光地しか行かない団体旅行ではなく、個人で自由に日本を訪問したいという中国人が急増。ビザもさらに取得しやすくなったことから、次第に、同じ商品をたくさん買うという意味の「爆買い」は減っていった。
観光庁のデータ(24年)によると、国・地域別の訪日外国人消費額のトップは中国人で全体の21.3%、金額は1兆7335億円となっている。このことから、中国人の「爆買い」は続いていると感じる人が多いのかもしれないが、その中身は変化しており、日本人が抱く「爆買い」のイメージとは異なるものになっている。
■中国人観光客のニーズを捉えられなくなった日本
彼らは同じものを数十個買うのではなく、自分の好みのもの(趣味)を買ったり、体験・経験(いわゆるコト消費)にお金を使ったり、温泉旅館などの宿泊費にお金を使っているのだ。その「コト消費」も最近始まったものではなく、17年頃に始まっているので、最近の傾向ではない。
筆者の本に書いてあるが、当時から、すでに彼らは高野山で写経や座禅をしたり、北海道でスキーをしたり、東京大学(本郷)のキャンパスを歩いたり、イチゴ狩りをしたり、といったコト消費にシフトし始めていた。日本より30年、海外旅行の経験が遅れている中国人だが、遅れていたからこそキャッチアップは速く、あっという間に成熟化したのだ。
それなのに、日本人や一部の日本メディアがいまだに「爆買いは増えるか?」と考えるしまう理由のひとつは、観光地や観光施設がそうしたことを期待していると感じており、それに答える記事が求められている、と考えていることがあるだろう。春節=爆買いという言葉が脳裏に強くインプットされているため、春節がきたら、その話題に触れないわけにはいかないという固定観念だ。
もうひとつの理由は、個人客が7割以上となった今、中国人観光客の傾向を端的に捉えることは難しく、それができないため、イメージしやすい「爆買い」に逃げてしまうことだ。
「爆買いブーム」のときには、10〜30人くらいの中国人団体客は同じバスに乗り、同じ観光地で下車して、旗を持ったガイドとともに街を歩くので、「見た目」でわかりやすかった。だが、個人客がバラバラに旅行している現在は、彼らがどこにいるのかわからない。口を開けばわかるかもしれないが、「見た目」はほぼ日本人と同様であり、マナーもよくなっているからだ。
■古いイメージが観光客をがっかりさせることも
このような理由から、中国人=爆買いという着眼点しかなくなっているのだと感じる。各観光地や宿泊施設の中には、肌感覚で「かつての中国人観光客とはもうかなり異なる」ことを理解しているところも多いはずだ。いまだに「中国人観光客が来るから、真っ赤な装飾でお出迎えしよう」と考えるところもあるかもしれないが、わざわざ日本観光を楽しみにやってきた彼らにしてみれば、「ここは日本じゃないの? 日本にも春節があり、日本人は真っ赤な飾りつけが好きなの?」と感じて、興ざめしてしまう。
実際、筆者はそのような「残念な話」を中国人から聞かされたことがある。メディアは周回遅れで中国人観光客の現状を紹介しているが、それに惑わされず、現場感覚を大切にして、現状に合ったマーケティングをしていくべきだろう。
Wedge 2025年2月3日
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/36537