独選挙の論戦がトルコに飛び火 EU、加盟交渉打ち切り論に戸惑い
http://www.sankei.com/world/news/170920/wor1709200002-n1.html ドイツのメルケル首相がトルコの欧州連合(EU)加盟交渉打ち切りを検討する考えを示し、波紋が広がっている。24日の独総選挙に向けた論戦で
飛び出した発言で、トルコ側は強く反発。ドイツの選挙戦が飛び火した形だが、双方の険悪ムードが一層高まれば、移民・難民対策などをめぐる
トルコとEUの協力にも影響が出かねない。EUでは戸惑いが上がっている。
(ベルリン 宮下日出男)
9月3日、総選挙を控えたメルケル氏とライバル、社会民主党のシュルツ党首のテレビ討論会。トランプ米大統領にテーマが移ろうとすると、
「その前にトルコに話を戻す」とメルケル氏は切り出して語った。
「(EUの)同僚と加盟交渉の打ち切りで一致できるか話し合う」
討論では先立ちシュルツ氏が「首相になれば、トルコの加盟交渉の終結をEUに提案する」と表明。交渉終結に反対だった社民党の
姿勢転換に注目されたが、メルケル氏まで踏み込んだ態度を見せ、驚かれた。
独政府報道官は翌日、トルコの問題は緊急ではないと沈静化を図ったが、メルケル氏は5日の議会演説でも「私は決然とした立場を
推し進める」と強調。10月半ばのEU首脳会議で取り上げる考えを示した。
EUは近年、トルコのエルドアン大統領の強権的な手法が人権や法の支配を損なうとの懸念を強め、特に昨年7月の
トルコ・クーデター未遂後の強引な摘発を受け、双方の関係が悪化。その中でもとりわけトルコとの対立が激しくなっているのがドイツだ。
トルコでは記者を含むドイツ人10以上が拘束中で、独側の不信は強い。一方、トルコはクーデター未遂の関係者を独側が匿っていると主張。
4月の国民投票では在独トルコ系住民向け集会への閣僚参加が拒否された。エルドアン氏は「トルコの敵」とメルケル氏らを呼び、独総選挙では
投票しないようトルコ系住民に訴える“介入”にも出た。
このため、「交渉打ち切り」発言を受けてトルコは批判のトーンを上げた。トルコのカリン大統領府報道官は4日、「大衆迎合主義(ポピュリズム)的な
機嫌とり」と反発。エルドアン氏は「ナチと比較されると気分が悪いだろうが、この状況はナチズムだ」とドイツを非難した。
実際にメルケル氏がどれほど本気で交渉打ち切りを考えているかは、見極める必要はある。2005年に始まった交渉は停滞中で、EU内で
打ち切りを明確に支持する加盟国はオーストリアのみ。必要な賛成を得られるかは不明だ。独世論はエルドアン氏に批判的であり、シュルツ氏の
主張に乗って選挙の争点となるのを避けたとも考えられる。
とはいえ、過熱化する両国にEUや他の加盟国は心中穏やかではない。ギリシャ経由の難民・移民の流入を抑制できているのはトルコの協力が大きく、
イスラム過激派の動きなどテロ対策に関する情報交換などでも協調は不可欠。こうした関係が崩れるのは避けたいところだ。
トルコをめぐっては「欧州から離れ、加盟を不可能にしている」(ユンケル欧州委員長)との見解をほぼ共有するが、交渉停止には「一段の離反を促して
逆効果」(リトアニア外相)との声が上がり、フランスのマクロン大統領は「多くの危機でパートナーであり、決裂は避けたい」と強調。EUは「戦略的忍耐」
(欧米メディア)も求められる状況だが、双方の将来の関係の見通しは不透明になるばかりだ。
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