米国における新型コロナウイルスの急速な感染拡大は、米国人の生活を一変させてしまった。外出を制限されるような感染症のまん延という想定外の事態で、大統領選に関する関心はすっかり吹き飛んでしまったと言っても過言ではない。野党・民主党にとって幸運だったのは、予備選が集中した3月3日のスーパーチューズデーで候補指名獲得に向けた流れが穏健派のジョー・バイデン前副大統領(77)に一気に傾いていたことだ。【北米総局長・古本陽荘】
もし、急進左派のバーニー・サンダース上院議員(78)と一進一退のせめぎ合いが続いていたら、感染拡大は、民主党に深刻な混乱をもたらしていただろう。米国における感染がこれからどこまで拡大し、いつ収束するか見通せないなか、大統領選にどのような影響を及ぼすかを予想するのは容易ではないが、注目すべきポイントが見えてきた。
◇「戦時大統領」を狙うトランプ氏
「我々は大勝利する。他に選択肢はない。この戦争に勝つためには米国民の一人一人に果たす役割がある」(3月30日の記者会見)。連日、ホワイトハウスで記者会見しているトランプ大統領は、「戦争(war)」という言葉を使って、自らが先頭に立ち、対応する姿勢を強調している。
国家的な危機に直面した際、大統領を支えようという政治的な文化が米国にはあると言われてきた。戦時は愛国心が高まり、大統領の支持率が急伸することが過去にはしばしばあった。ギャラップ社の世論調査では、湾岸戦争でクウェートが解放され、イラクと停戦協定が結ばれた時期に当たる1991年2月28日〜3月3日の調査で、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領の支持率は89%だった。
米同時多発テロ(9・11)の直後にあたる2001年9月21〜22日の同社調査では、息子のジョージ・W・ブッシュ大統領の支持率は90%まで跳ね上がった。トランプ氏が頻繁に戦争という言葉を使っているのは、こうした数字を念頭に置いているからで、「戦時大統領」という印象付けを狙っているのは明白だ。
確かに、最近の世論調査では、トランプ氏の支持率は上向き傾向にある。「トランプ氏のコロナ対応」について尋ねると、支持率より若干高い数字が出ている。ワシントン・ポスト紙とABCニュースが行った調査(3月22〜25日)では、トランプ氏を「支持する」と回答した有権者は49%で、「支持しない」の47%を上回った。コロナ対応への「支持」は52%、で「不支持」は45%だった。
就任以来のトランプ氏の支持率は多くの調査で40%台後半で小刻みに変動し、大きくは変わらないのが一貫した特徴だ。不支持率が下がり、支持率が上回ったのはトランプ氏にとっては朗報と言えるが、湾岸戦争や9・11直後と比較すると、国民がトランプ氏を「戦時大統領」とみなし、愛国ムードが高まっている状況とは言い難い。
◇改めて浮き上がる米国の「分断」
一方で、注目すべきは支持政党別の傾向だ。コロナ対応への評価を見ると、共和党支持層は88%が支持で、9%が不支持。民主党支持層は逆に支持は25%にとどまり、不支持が70%と圧倒的に多い。調査結果は、亀裂がどんどん深まっている米国の分断ぶりを改めて示している。
トランプ政権寄りの保守系FOXニュースは、トランプ氏が連日、記者会見した内容を肯定的に評価し、「戦時大統領」への協力を拒む民主党の議員や知事を批判的に報道している。逆にリベラル系のMSNBCやCNNは、トランプ氏が当初、新型コロナウイルスへの不安をあおっていると民主党を批判し、「(トランプ政権を批判するための)でっち上げ」などと感染拡大の可能性を過小評価していたことに注目。いったんは4月12日のキリスト教の復活祭までに経済活動を正常に戻すことへの意欲を示したが、すぐに撤回したことなど対応の迷走ぶりにも焦点を当てている。
トランプ氏の支持者が前者の報道を信じ、トランプ氏に批判的な有権者は後者を信頼するという構図だ。同じことが、これまでウクライナ疑惑に関する弾劾裁判やロシア疑惑などで、しばしばみられてきた。そうした延長線上にあると考えれば、これから被害がさらに拡大しても、トランプ氏への支持と不支持は、そう大きく変化しないと推測できる。
しかし、だからと言って、大統領選に影響がないと考えるのは早計だ。トランプ氏が2016年大統領選で大方の見方を覆して勝利したのは、本来は民主党が優勢と考えられていた一握りの州を小差で勝ったためだ。そうした州は今回も接戦となる見通しで、コロナ対応でわずかでも批判が高まれば、その批判分だけで、民主党に政権奪還の余地を与えることになる。
全文はソース元で
4/11(土) 10:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200411-00000026-mai-int
もし、急進左派のバーニー・サンダース上院議員(78)と一進一退のせめぎ合いが続いていたら、感染拡大は、民主党に深刻な混乱をもたらしていただろう。米国における感染がこれからどこまで拡大し、いつ収束するか見通せないなか、大統領選にどのような影響を及ぼすかを予想するのは容易ではないが、注目すべきポイントが見えてきた。
◇「戦時大統領」を狙うトランプ氏
「我々は大勝利する。他に選択肢はない。この戦争に勝つためには米国民の一人一人に果たす役割がある」(3月30日の記者会見)。連日、ホワイトハウスで記者会見しているトランプ大統領は、「戦争(war)」という言葉を使って、自らが先頭に立ち、対応する姿勢を強調している。
国家的な危機に直面した際、大統領を支えようという政治的な文化が米国にはあると言われてきた。戦時は愛国心が高まり、大統領の支持率が急伸することが過去にはしばしばあった。ギャラップ社の世論調査では、湾岸戦争でクウェートが解放され、イラクと停戦協定が結ばれた時期に当たる1991年2月28日〜3月3日の調査で、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領の支持率は89%だった。
米同時多発テロ(9・11)の直後にあたる2001年9月21〜22日の同社調査では、息子のジョージ・W・ブッシュ大統領の支持率は90%まで跳ね上がった。トランプ氏が頻繁に戦争という言葉を使っているのは、こうした数字を念頭に置いているからで、「戦時大統領」という印象付けを狙っているのは明白だ。
確かに、最近の世論調査では、トランプ氏の支持率は上向き傾向にある。「トランプ氏のコロナ対応」について尋ねると、支持率より若干高い数字が出ている。ワシントン・ポスト紙とABCニュースが行った調査(3月22〜25日)では、トランプ氏を「支持する」と回答した有権者は49%で、「支持しない」の47%を上回った。コロナ対応への「支持」は52%、で「不支持」は45%だった。
就任以来のトランプ氏の支持率は多くの調査で40%台後半で小刻みに変動し、大きくは変わらないのが一貫した特徴だ。不支持率が下がり、支持率が上回ったのはトランプ氏にとっては朗報と言えるが、湾岸戦争や9・11直後と比較すると、国民がトランプ氏を「戦時大統領」とみなし、愛国ムードが高まっている状況とは言い難い。
◇改めて浮き上がる米国の「分断」
一方で、注目すべきは支持政党別の傾向だ。コロナ対応への評価を見ると、共和党支持層は88%が支持で、9%が不支持。民主党支持層は逆に支持は25%にとどまり、不支持が70%と圧倒的に多い。調査結果は、亀裂がどんどん深まっている米国の分断ぶりを改めて示している。
トランプ政権寄りの保守系FOXニュースは、トランプ氏が連日、記者会見した内容を肯定的に評価し、「戦時大統領」への協力を拒む民主党の議員や知事を批判的に報道している。逆にリベラル系のMSNBCやCNNは、トランプ氏が当初、新型コロナウイルスへの不安をあおっていると民主党を批判し、「(トランプ政権を批判するための)でっち上げ」などと感染拡大の可能性を過小評価していたことに注目。いったんは4月12日のキリスト教の復活祭までに経済活動を正常に戻すことへの意欲を示したが、すぐに撤回したことなど対応の迷走ぶりにも焦点を当てている。
トランプ氏の支持者が前者の報道を信じ、トランプ氏に批判的な有権者は後者を信頼するという構図だ。同じことが、これまでウクライナ疑惑に関する弾劾裁判やロシア疑惑などで、しばしばみられてきた。そうした延長線上にあると考えれば、これから被害がさらに拡大しても、トランプ氏への支持と不支持は、そう大きく変化しないと推測できる。
しかし、だからと言って、大統領選に影響がないと考えるのは早計だ。トランプ氏が2016年大統領選で大方の見方を覆して勝利したのは、本来は民主党が優勢と考えられていた一握りの州を小差で勝ったためだ。そうした州は今回も接戦となる見通しで、コロナ対応でわずかでも批判が高まれば、その批判分だけで、民主党に政権奪還の余地を与えることになる。
全文はソース元で
4/11(土) 10:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200411-00000026-mai-int