[ロンドン 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 多国間の枠組みや国際機関を蔑視するトランプ米大統領の性癖が新たな、そして危険な局面に入った。地球規模で未曽有の感染症被害が広がる中にありながら、トランプ氏は世界保健機関(WHO)への資金拠出停止を発表。人類の生命を危険にさらし、信頼できるパートナーとしての米政府のイメージもごみ箱に捨てた。
今こそ、これまでもWHOへの大口出資者だったビル・ゲイツ氏とマイケル・ブルームバーグ氏のような米慈善活動家が、今回の発表がもたらす道義的な、そして金銭的な「隙間」を埋めるべき時だ。
WHOとテドロス事務局長に対するトランプ氏の怒りは、新型コロナウイルスの米国内での影響の広がりと足並みをそろえるように高まっていた。トランプ氏が拠出停止を発表し、中国寄りだとWHOを非難した14日は、米国で1日のコロナの死者が過去最多の2200人になったことが確認された日でもあった。コロナ危機の深刻さをトランプ政権自身が軽視していたことから、目をそらさせる試みであることがにおってくる。
振り返って2月24日、トランプ氏はツイッターに新型コロナは「米国では非常に制御されている」と投稿。その際は、米保健医療当局とWHOの働きぶりも賞賛していた。
今回のようなトランプ氏の言動は、WHOが受けている批判で、当たっているところもある幾つかの点をかき消してしまう。中国政府が反対するためWHOが台湾に加盟を認めていないのは大いに問題だ。その台湾は新型コロナへの対処でモデルと評されていいかもしれない地域である。
一方、WHOは、中国が厳しい封鎖措置を通じてウイルス拡散の抑止に成功したとほめたたえた。しかし、中国が流行の初期段階で警告情報を抑圧したことには一段と批判が強まっており、WHOのそうした賛辞も色あせる可能性がある。
2015年に大流行したエボラ出血熱を見ても、あらゆる大規模な健康危機には、過ちが繰り返されないようにするための厳密な事後分析が求められる。
資金拠出の停止はこうした目的に何一つ資するものではない。昨年12月時点で米国が約束していたWHO拠出金は、義務的な「分担金」と、「任意拠出金」と合わせて8億9300万ドル。これはWHO予算全体56億ドルの16%だ。これに対して中国の拠出額は8600万ドルだった。
新型コロナだけでなく、エイズやマラリア、結核などと闘うWHOのプログラムは、トランプ氏の見境のない言動によって危機に追いやられてしまう。こうした面での貢献は、米国の「ソフトパワー」の重要な源のはずだった。
米国からの拠出は、まず90日分まで、つまり2億2300万ドルが停止されることになっている。一方で、ゲイツ氏は既にこの額の2倍以上を任意拠出している。600億ドルの資産を持つとされるブルームバーグ氏のような人物も、表明済みの2400万ドル以上にもっと増額するのは簡単ではないか。とりわけ、大統領選の選挙運動には個人資産9億ドルをつぎ込んだりしているのだから。
今の米大統領には無理なことかもしれないが、どのような形であれ、WHOが直面し得る拠出金不足を埋める約束をすれば、米国の価値に対する世界からの信頼をいくらかは修復できるだろう。今回の事態は大統領選本選のある今年11月にもっと意味を持ってくる可能性もある。
●背景となるニュース
*トランプ米大統領は14日、世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルス対応を批判し、WHOへの資金拠出を停止すると発表した。
*トランプ氏はWHOが中国の「偽情報」を助長したと非難し、WHOは責任を取る必要があると述べた。国連のグテレス事務総長はトランプ氏の決定を批判し、国際社会に結束を呼び掛けた。
コラム2020年4月16日 / 17:00 / 8時間前更新
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