経営不振の上場企業が倒産したりすると、株主が保有していた株券が“紙切れ”同然となるケースは珍しくないが、閉鎖した自動車の工場がティッシュやトイレットペーパーなどの製紙工場に衣替えする例はあまり聞いたことがない。
三菱自動車が、岐阜県にある子会社のパジェロ製造の工場を紙パルプ大手の大王製紙に売却するという。
きょうの日経がビジネス面のトップ記事で「三菱自『パジェロ』工場売却」などと、大きく報じている。記事によると、週内にも発表するとしており、大王製紙への売却額は土地と建物をあわせて40億円前後となる見通しで、三菱自動車は売却益を23年3月期に計上するもようだとしている。
パジェロ製造といえば、水島や岡崎とともに国内の三菱自動車の主力工場の1つだった。1982年から人気車種だったパジェロの生産を開始。最盛期には年間17万台を生産したが、その後のパジェロブームが去ると稼働率は落ち込み、2021年8月末ですべての生産を終えて工場を閉鎖していた。
パジェロ工場を取得することになった大王製紙はティッシュやトイレ紙などではシェア3割弱を占める国内トップ。引き渡される工場では新型コロナウイルス禍で需要が増えた衛生用紙などの増産体制を整える方針という。パジェロ製造で働いていた約1000人の従業員は3割が岡崎製作所など三菱自の中で移籍し、3割は近隣企業などに再就職したほか、250人強は希望退職したという。日経によると「大王製紙の新工場に就職を希望する人もいるもようだ」とも伝えている。
国内の紙パルプ業界といえば、繊維や製糖産業とともに戦後の復興から高度成長期は朝鮮動乱の特需によるいわゆる「三白景気」の追い風などで活況を呈していたが、石油危機後は一転、過剰設備を抱えた典型的な構造不況業種に様変わりした。さらに、バブル崩壊を機に業界再編が加速し、ペーパーレス化による需要減退の中で、宅配需要の増加による段ボールや巣ごもりで増加している衛生用紙事業などを強化しながら生き残り策を模索している。そんな中、一世を風靡したパジェロの工場が、コロナ禍によって大きく変貌した市場構造で、かつての構造不況業種の代表格だった製紙会社に引き継がれることになるとは「隔世の感」を禁じ得ない。
https://response.jp/article/2022/03/16/355242.html