<過激に、強く、味方からみれば批判的な言葉を使って、相手の主張を小気味よくぶった斬っていく――
こんなに分かりやすい「敵」がいると名指しされれば、何が悪いのかもよく見えてくる。
だが、それだけだ。かくして複雑なはずの問題は単純化され、次から次にニュースは消費されていく>
■今回のダメ本
当コラムは最終回となる。約2年間続けてきて見えたことは極論の功罪だ。
過激で、強く、敵を見つけて、味方からみれば批判的な言葉を使って、
相手の主張を小気味よくぶった斬っていく。
なるほど、こうした本を読むとスッキリして、喝采を上げたくなる気持ちもわかる。
こんなに分かりやすい「敵」がいると名指しされれば、何が悪いのかもよく見えてくる。
だが、それだけだ。
本書が話題になる理由にも通じるものがある。
本書は極めてよくできたアジテーション演説集のような1冊だ。
安倍政権は「歴史の汚点」であると白井は言い、根拠を列挙し、
その1つ、1つに切れ味鋭い――と支持者が受け止めそうな――批判を並べる。
章の中で、同じ主張を持つ人が盛り上がりそうな言葉を印象的に使い、
最終的に「主権者たることとは、政治的権利を与えられることによって可能になるのではない。
それは、人間が自己の運命を自らの掌中に握ろうとする決意と努力のなかにしかない」と
情熱的な一文が掲げられ大団円を迎える。
(中略)
この本の特に現代の政治動向を論じた評論部分は、批判している安倍政権の特徴とよく似通っている。
「お友達」政治を批判するが、この本の中で引用される多くは、
極めて考え方が近い人々からのものか、安倍政権に批判的な言葉をピックアップし、
自身の論の補強に使っているにすぎないからだ。
例えば、新型コロナを論じた箇所では、表層的な「検査と隔離」論が繰り出される。
(中略)
■「安倍政権がダメな理由」を集める人々
(中略)
しかし、こうした実情を指摘したところで、届く可能性はほとんどないだろう。
彼らからすれば、新型コロナは安倍政権がダメな理由を挙げるための1つのネタにすぎないからだ。
これがダメなら、別のネタを見つけてきて批判を繰り出せばいい。
政治的な主張に合致するものを見つけることができればそれで十分であり、
結果として現実的な問題解決に関心は払われなくなる。
かくして本来なら複雑なはずの問題は単純化され、次から次にニュースは消費されていく。
1人のニュースの書き手としては悲しいが、この本を取り巻く現実は受け止めなければならない。
※この連載は今回で終わり、次回から石戸氏の新連載が始まります。